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不思議な力でベイスターズに集った「平成元年世代」

2019年に文春野球フレッシュオールスターに応募したけど箸にも棒にもかからなかった原稿が出てきた。文春野球FASは「素人の祭典」ではあるのだけど、当時からかなりの激戦区。「自分しか知らないなにか」も無しに挑んで選ばれるには筆の力が足りなかったのである。

2022年になって読み返すと、引退した選手たちはみな裏方としてチームを支えており、田中健二朗はトミージョン手術前のもどかしい時期。色々思うところがある。


2019年2月1日。沖縄。宜野湾のベイスターズキャンプに脚を運んだのは2回目だったが、初日に居合わせるのは初めてだ。朝8時30分。自分としては早起きをして室内練習場の前に陣取っていると、颯爽と自分の目の前を歩く選手が2人。改めてこの間近さに感動しながら、ひとりは伊藤光だとわかる。相変わらずの端正な顔立ちだ。もうひとりは、見慣れぬ顔だけど誰だろう。記憶の引き出しの中を探しながら、ウィンドブレーカーの袖に書かれた「0」が目に入る。中井大介だ。10年以上在籍した巨人を去り、志新たに挑む新天地。かつてチームメイトだったのはホセ・ロペス、そして監督のラミレスくらい。そんな状況で、同い年の伊藤光は頼りになっているのかな、と想像を膨らませていた。

時計の針を7年前に巻きもどす。2012年1月29日、横浜はみなとみらい。 新規参入の気合が空回りしたデザインになるのではと心配していたのに、蓋を開けたらいい感じに「継承と革新」を表していた、新星・横浜DeNAベイスターズのユニフォーム発表会。三浦大輔金城龍彦、山口俊ら主力選手によるユニフォームお披露目の後に行われたのは、新入団選手紹介であった。その年の末には谷繁元信の後継者になると将来を嘱望された高城俊人キャプテンシーあふれる遊撃手として期待された桑原将志ら9人の新人たち。ありとあらゆる不安の中で一筋の希望に目をキラキラさせる高校生たちを見ながら、その春に大学を卒業して4月から社会人になろうとしていた自分はちょっとだけ不服だった。

「そうか、同い年、いないんだな」

2007年の高校生ドラフト一巡目で入団したセンバツ優勝投手の田中健二朗は、目立った活躍をできないでいた。佐藤祥万大田阿斗里もポテンシャルを発揮できずにおり、坂本大空也はすでに球団を去っていた。

2011年のドラフト会議、球団を手放すことが殆ど確定していた横浜ベイスターズの編成陣は、当初の入札こそ東洋大学藤岡貴裕を指名するも抽選を外すと、1位の北方悠誠からドラフト6位の佐村トラヴィス幹久まで高校生を指名する。高卒社会人だった松井飛雄馬を指名するとさらに高校生2名を指名して選択終了。指名された大卒選手は一人もいなかった。

野球ファンが勝手に選手に感情移入を抱くきっかけは星の数ほどある。同郷、出身校、名鑑に載る同じ女優がタイプだったこと… その中でも、自分と同じ「世代」であることには、どこまでも厚かましいくらいに力強いつながりを感じさせてくれる。事あるごとに「自分は松坂世代」と言う男性に出会ったことは1度や2度ではない。平成元年産まれの自分が心待ちにしていたのは、感情移入する同い年の大卒スターだった。

風向きが変わったのは2013年のドラフト会議。大卒社会人の平成元年世代がドラフト解禁となるこの年、ドラフト2位で平田真吾が、同4位で三上朋也がベイスターズに入団する。中でも三上は新人ながら守護神に抜擢され、大車輪の活躍を見せる。球団史上初のクライマックスシリーズ進出を果たした2016年、「リリーフ四天王」と言われた鉄壁のブルペン陣の2つの柱が、三上と田中健であった。

2017年から、立て続けに他球団から89年世代が加入する。2017年オフに武藤祐太、2018年シーズン途中にはトレードで伊藤光、米球界から中後悠平。そしてこのオフには巨人から戦力外通告を受けた中井。あの日、みなとみらいで少しだけ絶望した自分からすると、どこか不思議なチカラが89年世代をベイスターズに引き寄せたような気がしてならない。

2019年、平成元年世代は30歳を迎える。普通のサラリーマンであれば脂が乗ってきてバリバリと活躍する頃。自分も仕事を自ら作って自分で仕事のペースをある程度コントロールすることができるようになったからこそ、早上がりをしてハマスタに行く機会も増えた。

だが、プロ野球の世界で「30歳」が意味するところは違う。若手と呼ばれる時期は過ぎ、少し気の早いアナウンサーや新聞記事はベテランとさえ呼ぶようになる。昨今の米球界では、これまで以上に過去の実績より将来性を重視して選手契約が結ばれるようになり、30歳前後でフリーエージェントになった選手は一気に苦しくなるという話も聞く。

確かにその選手人生は第三コーナーを抜けたところだろう。身体の動き方もそれまでとは違ってくるだろうし、選手としての価値の相対評価を大きく上げることは難しいかもしれない。でも、ファンとして願うのは、その選手が納得する野球人生を全うできるかだ。

完投した若手投手をマウンドまで笑顔で迎えに行く伊藤光をこれからも見たい。右肘クリーニング手術で今季の大半をリハビリに費やすことになった三上がブルペンに居る安心感は誰もが知るところだ。チームで20失点した昨年9月の阪神戦で先発した今永昇太を救援したものの流れを止めれれなかったあの日以来一軍登板の無い田中健も、このまま終わっていいと思っていないはず。

毎年のように活きの良い若手選手が加入し、台頭し、活躍するベイスターズだからこそ、30歳を超えた選手がチームに精神的安心をもたらしてくれたと思える機会も多く訪れるだろう。そんな同級生の姿に勝手に勇気をもらうファンは、自分だけではないはずだ。