『ワーキングハマスタ』で観た、忘れ得ぬ光景
今更だけど、2022年のベイスターズの話をしたい。
あんまり話題になってないのかもしれないけど、今年のベイスターズの取り組みで面白かったのが『ワーキングハマスタ』という企画だ。
2019年に新設されたプライベート観戦スペース「NISSAN STAR SUITES」を1部屋数名に対して開放し、朝から球場開門までの約6時間の間、リモートワークを行うコワーキングスペースとして利用ができるという実験的企画。
自分は4月のある試合、朝からワーキングハマスタ、夜は試合観戦と一日まるまる堪能コースを味わった。
ワーキングハマスタでは、室内もテラスも利用できる。それはもちろん、テラスに出て早出練習の様子を観ずにはいられない。1 詳細な時間は覚えていないが、最初にそれらしい姿が見えたのは誰もいないスタンドだった。上下とも黒のシャツとハーフパンツ、真っ黒のサングラス、そして只ならないオーラ。 その影が左翼ポールから現れても、三浦大輔であることは明確だった。
数々の球団ドキュメンタリーや広報素材で見慣れた、淡々と客席の間をぐるぐると回る姿は現役時代は現役時代と変わらない。ただ一点、視線を落とし、スマートフォンに打ち込んでいる様子はジョギングというよりウォーキングであった。
そういえば、ベイスターズ内でのコミュニケーションには Slack が利用されている という。それを知った時は「デスターシャのカスタム絵文字は入ってるのかな」「今永の個人チャネルには哲学的なつぶやきが流れているのかな」なんていう "ベイスターズSlackあるある" を考えてしまったけど、「マネージャー」が Slack 中毒にならざるを得ないのはここでも同じなのか、と思ったのはこのときだ。
時はチーム内で COVID-19 の集団感染が発生しており、選手登録が毎日のように目まぐるしく入れ替わっていた。現場を預かる指揮官だ。今日は誰のコンディションが悪い、スクリーニング検査の結果はどうか、みたいな話がひっきりなしに入っているんだろうか、と思った。
グラウンドで言うと、最初に出てきたのはこのオフに6年にわたる大型契約を球団と結んだ宮﨑敏郎だった。宮崎が一番最初にグラウンドに出てくる、という話も聴いたことがあったが、本当だったんだ。試合開始の8時間も9時間も前になる光景であった。ゆったりとした時間ではあったが、簡単に触れてはいけない緊張感があった。これが人生をかけて、億の金をかけてやる野球なのか、と改めて感じた。
この日、些細なバッテリーエラーに乗じて二進を試みた宮﨑は脚を痛めて途中交代。翌日以降は様子を見たものの症状は好転せずに登録抹消となった。脚力を期待されている選手でもないのだからあのような走塁で無理をするな、という声を当日のSNSでは多く見かけた。確かに最もだと思う。一方であの光景を見た自分には言えない言葉だった。
ちなみに言うと、ワーキングハマスタからの球場での観戦は、球場周辺に気軽にシャワーを浴びれたりじっくり休む環境を確保できないと30歳オーバーの身体にはしんどかった2。試合自体は F・ロメロが阪神相手に立ち上がりに打ち込まれ、そのタイミングで酒も回ってしまったのもあり、あまり堪能できていない。2022年の後半によく見られた、派手ではないが着実に勝つ試合であっただけに少々勿体なかったが、藤田一也の復帰後初ヒーローインタビューは感慨深く聴いたものだった。